子宮がん検診 MRIで気分を変えよう
○さんの事例は、「長く超音波の検査を受けないと、このように進行して手がつけられなくなってしまいますよ」という反面教師をまのあたりにするような思いであった。
幸いにも、彼はきわどい悪戦苦闘がまるで嘘のように劇的に生還することに成功、順調に社会復帰することができた。
それにしてももう少し早くがんを発見していれば、ここまでの危地を経験することもなかったであろうというのが、私のしみじみとした思いでもある。
ただ彼の長い病歴を反潟してみて、肝臓がんの診断という点で与えられた適切な時間帯は六十代のある半年間ほどに限られていて、実際、来院時にはすでに時期を失した観があったと思うと、いいようもなく複雑な気持ちにさせられる。
あらためて市民社会と医療機関の距離の遠さに思いをいたす。
「治療したいのはやまやまだけど、どこをつっついてもそんな余裕がないのですよ」と、働き盛りのHさんが申し訳なさそうに言う。
執揃にインターフェロンの治療を勧める私に毎度、苦しい笑顔を作る彼は、この六年間にC型慢性肝炎の検査値において、明らかに肝臓がん発生の危険水域に入ってきている。
また五十代のC型慢性肝炎のMさんは、私の度重なる提案に耐えかねたようにいつしか病院の外来から姿を消した。
何年かぶりに彼が入院患者として病院へ戻ってきたのは、ほとんど治療不能の重症肝臓がんの患者として、ようやく生活保護の資格を得てのことである。
最近、地域の一線医療現場で医療費を捻出できないため受診を手控えるHさん、Mさんのような患者が急増している。
特に健康保険証を持たずに受診、窓口で現金による全額支払いを求められて困惑する例も目立つ。
所得の低い高齢者、純然たる低所得層が社会的に増加するにつれて、健康保険の保険料を負担できない世帯が激増しているためで、一説によると大都市では五世帯に一世帯が国民健康保険料を滞納しているとも言われる。
がんをめぐる医療費の総額ということでは、平均的に二○○万円、あるいは三○○万円、中には五つの病院を転々として一○○○万円近くかかったという声が患者、家族から聞こえてくる。
三○○○円、五○○○円の窓口負担でさえ容易でない患者は、高い病院のハードルが越えられず市販の売薬で急場をしのぐなどしているうちに、Mさんのように病状が悪化、手遅れになる悲惨なケースが相次いでいる。
同じような話題でがんの予防に目を転じると、目下、がん検診受診率の横ばいで、低下傾向に拍車をかけるような方向で検診政策全般が見直されている点が強く懸念される。
これまでがん検診を支えるための財源は無条件に国庫補助が前提であり、受診者数に応じて支給額も増える仕組みだった。
このところの地方分権化の流れで、集団検診に対する補助金の一般財源化という措置が実施されることになった。
これまで検診の費用対効果についてしばしば論議が行われてきたが、これからは自治体独自の判断で、がん検診に固定的に使われていた財源をたとえば道路や橋の建設費として使うことも可能となる。
この一般財源化によって、今後は対策(政策)型検診の後退を人間ドックなど任意検診によって代替する方向性が強まり、医療費削減、混合診療(健康保険による診療費以外に、自費負担を求められる)、はては医療機関の株式会社論まで、地域医療レベルでの格差政策、自己責任主義はとどまるところを知らないようで早期発見モデル胃がん検診目下のところ、がん全般に対する治療戦略の第一は、早期発見のがんに対して侵襲の少ない手術で根治を目指すという点である。
当然、がんの予後が改善されるために早期発見の重要性がひとしきり強調されることになる。
たとえば胃がんでは、「がんの型やリンパ節転移の有無にかかわらず、がんが胃の粘膜下層までにとどまっているもの」、すなわち病変が胃壁を構成している固有筋層に達していないものを「早期胃がん」と規定している(序章参照)。
これら早期胃がんにおいて、手術後五生率は九○%以上と予後の良さが立証されているため、職域、地域で集団検診をはじめさまざまな検診体制が機能しているのが現状である。
当初、集団検診によって発見される胃がんの大半が進行がんであった。
現在は半数以上が早期胃がんといわれており、この早期胃がんの発見率の上昇と共に治癒率が飛躍的に改善していったとされる。
胃がん大国の日本で、これまで死亡率の減少が二○%以上といわれるほどの成果を挙げてきたのは、外科的技術の進歩もさることながら、その基礎として集団検診の普及が強調される。
過去に国民病の結核に対して集団検診が大きな役割を果たしたように、胃がんの克服にも集団検診が最も効果的であろうと考えられたのである。
ただし最近は胃がんの催患率の減少に伴い発見率の低下、受診者数の頭打ち現象が論じられるようになっている。
また各論に過ぎるかもしれないが、一次検診でさらに精密検査(胃内視鏡検査)を要すると判断された場合の対応は微妙である。
これまで胃がんについてはX線を中心としたスクリーニングが職域、地域で精力的に行われてきた。
検診の始まった当時はいざ知らず、現在では内視鏡検査の優位性が強調されるようになっている。
その理由として、胃がんの見落としが少ない、直接生検が可能、X線では描出できない胃の上部がんの増加などが挙げられている。
一言で言って、一線医療現場でもX線造影検査は次第に用いられなくなり、その分、内視鏡検査の頻度が圧倒的となっている。
しかも後者では経鼻的に挿入する内視鏡の登場などで、患者負担は段違いに軽減されるようになっている。
その趨勢と逆行するような方向のことが一般の検診で堂々とまかり通っているというのはいかがなものであろうか。
さらに最近、放射線被曝の危険性によって少なからぬがん死の発生が推計され問題視されている。
このように検診方法の内容に批判が相次ぐようになって、早期発見のモデルのように言われる胃がん検診も大きな曲がり角に至っていると言わざるをえない。
その他、胃に加えて、肺、大腸、子宮、乳がんなど、検診によって死亡率が下げられると考えられる五つのがんを対象に、目下、老人保健法に基づく検診が実施されている。
そうしたがん検診で成果を挙げようとすれば、究極的に検診受診率の低さをどう克服するかにつきると思われる。
がん検診は受診率が六割を超してはじめて死亡率の低下に結びつくとされる。
最近、米国で乳がんによる死亡率が低下し始めたと伝えられるが、七○%を超える検診受診率の成果と考えられる。
対比的に日本の乳がん検診率は十数%という現状で、はるか及ぶべくもない。
こうした受診率の低さという問題は検診を受診する層の固定化と表裏一体と考えられる。
たとえば高齢者層の検診では、毎年、受診する者は決まっていて、新規の受診者はそれほど増えていないのが実状といえる。
胃がんのように早期発見・早期治療の概念の浸透で死亡率が減少したがんにおいても、時には進行がんとして発見されるものが少なくない現状は、これらの事実を雄弁に物語っているのではなかろうか。
かりに早期発見の量的な追求だけにこだわるならば、高齢ほどがん確患率が高いとされる事実に鑑みて、七五歳以上の後期高齢者をターゲットにした検診を綴密に制度化すれば、がんの診断率はかなり向上するのは疑いえないであろう。
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